高橋の意見書 2021年9月裁判所提出

市民訴訟において、裁判所に三権分立はない。行政の味方をする。 名古屋城天守木造化に反対

木造天守事業が止まっている理由とは  takahashi-opinion/

高橋和生の意見書     2021年(令和3年)8月6日

私は高橋和生といい、昭和50年(1975年)に国立名古屋工業大学を卒業した一級建築士です(一級建築士登録番号:第142537号、登録年月日:昭和55年7月30日)。同大学では内藤昌教授のもとで安土城復元の研究の下働き(内藤昌著「復元安土城」講談社発行2006年12月10日)」あとがき)をし、卒業論文は「近世城下町の町割規模」でした。卒業後は清水建設に入社し、多くの現代建築の設計に携わり、平成24年(2012年)に退社後は名古屋市内で企画設計専業の「デザインオフィス タック」を経営しております。

建築設計に携わる者としての使命は、建築基準法・建築士法にあるように、「生命・健康・財産の保護を、品位を保ち、公正かつ誠実に行う。」ものです。建築物の備えるべき最低限の基準は、建築基準法に定められており、科学的に実証された安全性を保つことが、なにより第一にあると理解しております。

名古屋市が「名古屋城天守を木造で建て替える。」と、私は2015年6月に聞き、すでに述べましたように内藤教授の「復元安土城」の研究を近くでみており、かつ現代の建築設計の実務をした者として、一際ならぬ興味を持って、名古屋市の計画及び説明を6年前から拝見しておりました。

多くの人を受け入れる「観光」拠点としての説明と共に、400年前の木造天守を「史実に忠実に復元」との説明が行われたのですが、伝統木造建築を復元するのでは、現代の建築基準法、消防法、バリアフリー法等の法令にはかなわず「危険な違法建築」となります。そのままでは不特定多数の観光客を受け入れる建築物とは認められません。逆に現代の建築基準にもとづき、耐震性、耐火性、及び発災時の安全な避難を備えさせようとすれば「史実に忠実な復元」からは逸脱する要素が多く発生することを、私はプロとして予見していました。

つまり、現代の「観光」拠点の建築物として当然備えるべき安全性と、「文化財・同等(建築基準法3条1項4号の法適用除外)」の復元という、この相反する建築物への要求への折り合いを名古屋市はどうつけるのか、名古屋市の行った市民説明会にも幾度か参加しましたが、この問題についての明解な説明(避難階段、身障者エレベーター、防火区画、排煙設備etc.)を聞くことはできませんでした。

この裁判で問題となっている建築物の「基本設計業務」について説明させていただきます。

基本設計とは、建築物を建てる施主の希望や利用様態を理解し、建築物の建つ敷地条件、法的条件を勘案し、震災や火災に耐え、法に適合するかを検討し、設計図書に表し、その設計へ関係官庁の了解を得る事であり、さらに設計図書に基づく概算見積り書を作成し、以上の内容全てにおいて施主の了解を得て、「基本設計業務」の完成となります。その後に、造るための「実施設計業務」に移行します。

基本設計作業を行った場合には基本設計図書が結果として存在します。さらに、建築の専門家ではない施主に対して、わかりやすく説明するために基本設計説明書を作成します。 

私は市民オンブズマンの「基本設計業務の開示請求」2018年5月に同行しました。わかりやすく書かれた基本設計説明書を見れば、名古屋市がどういった天守を建築しようとしているのかが明確になると期待していました。ところが、その内容については殆どを黒塗りでした。

しかし、公開された内容だけで「基本設計説明書」の表紙はまやかしであり、文化庁への「史跡保存活用計画」(甲26)提示時に付加された木造天守の「基本計画(案)」であることがわかりました。名古屋市は「基本設計業務は終えた。」として基本設計料を全額払っていますが、それは「天守木造化事業は進んでいる。」と議会、市民をだますためだと確信しました。案としてあるのは、400年前の「復元原案(文化庁の専門用語)」であり、現代の法にかなった観光拠点として使える「復元案」ではありません。


今年2021年5月の報道によると、文化庁は文化審議会に名古屋城木造天守を今もかけておらず、名古屋市は基礎構造「跳ね出し架構」をこれから見直す方針とのことです。竹中工務店が作成した技術提案書(平成28年3月25日)(甲25)許認可・契約スケジュールにあるように、基本設計業務は文化審議会の了解を得て完成です。未だ、この工程表では「0フェーズ=基本設計業務に入れていない」にいるという事となります。2022年末竣工の竹中工務店との「請負契約」は、このスケジュール表によれば、2018年7月に文化庁が木造天守の基本計画(案)を受け取らなかった時点で破綻しています。

「危険な違法建築」を取り締まる名古屋市自らが違法行為「史実に忠実な復元」を、税金を使って行うとしているのです。
直ちに、市が出来ているという木造天守の基本設計図を明らかにし、昨年6月文化庁見解「まずは、メンテナンスをしなさい。」を受けた現天守の耐震改修案も作成し、両案を市民に示して「観光」と「文化財」との間の問題を明らかにしない事には、税金の無駄使いが続くことを指摘して終わります。

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名古屋城天守木造化事業が止まっているのは、名古屋市が言い、そのまま中日新聞が報道する「石垣問題」でも「身障者のエレベーターを最上階にあげる」のでもなく、

名古屋市は、本来、命・財産・健康を最低限守ると定められた建築基準法なのですが、「法を守らなくてよい国宝、重要文化財 @建築基準法3条」相当にすることによって、レプリカ・木造天守は実現できるとしたのでした。ハンドバックならフェイクだと税関で取り押さえられますが、河村市長にはレプリカ・木造天守は「ホンモノ」なのでした。法の立て付けは、河村市長が名古屋市建築審査会の同意を得て、「法を守らなくてよい国宝、重要文化財 @建築基準法3条」とすることができます。

国宝、重要文化財に「史実に忠実に復元」されたレプリカは相当することを前提としてコンペを行ない、竹中工務店も建築基準法3条を河村市長の権限で適用されるとして応募したのでしたが、国交省は2017年3月25日に通達「国宝、重要文化財等を除き、建築基準法に定める技術基準はすべての建物に適用される。」をわざわざ出しました。400年前の史実に忠実な復元では、危なくて人を入れられません。

火事で燃え、地震で壊れる木造天守を名古屋市と文化庁によって作らせるわけにはいきません。人の命をおろそかにする木造天守推進派を糾弾しないといけません。

使われることはなかった高橋の陳述」facebook2021年5月15日記 です。これを私が裁判所で行うと、河村市長の弁護士は強姦は無かった合意だったと週刊誌に書いた民事の弁護士であり、私の使っている建築用語がわかりません。なら、名古屋市の役人もしくは竹中工務店の設計者が裁判所に来ましょうか?技術者同士のやり取りでは、嘘をついてきた名古屋市もごまかし切れず高橋の陳述を受け入れざるを得ません。ですので、裁判官は「高橋の意見書」を証拠採用しなかったのでした。「強姦は無かった合意だった。」という意思の話は書面に残りようがありませんが、「高橋の陳述」における名古屋市が公開した資料は「基本設計は未了」であることを示しています。

この裁判の判決「名古屋市は適法に行っている。原告の訴えは棄却。」の前にあったことを書き出しておきます。

①2017年11月21日

私たちは行政不服審査法に基づき、「平成24年、コンクリート天守は耐震改修と決められていたが、どうして木造天守復元となったのか」の審査請求をしましたが、2018年3月1日に河村市長に却下されました。「木造でもコンクリートでもそれは高橋の利害に影響しない。」が理由でした。行政不服審査法はざる法であり、私の相手は天守木造化事業を進める観光文化交流局の総務課でした。

②2018年9月21日 

名古屋市監査委員に「基本設計に違法性が疑われる。違法行為の是正と事業の停止を求める。」としました。

③2018年11月9日 

4人の監査委員は「基本堰業務について意見がわかれたので、基本設計が未完成であることを前提とした首長には判断しない」とあり、12月17日に名古屋市地方裁判所に私たちは提訴しました。監査請求の150人から、15人に原告は減りました。私も前職を考慮して竹中工務店を非難する立ち位置はいけないと降りました。

④2020年(令和2年)11月5日 

裁判所は「棄却」でした。判決文は長く、わかりにくいものですが「基本設計説明書があるのだから、どこかに基本設計図書はあるのだろう。」には、ほんと情けなくなりました。建築素人の裁判官に基本設計業務が何たるかはわかるはずがなく、専門家に聞き、名古屋市に「基本設計図書を出せ!」と迫るのが、三権分立の民主主義における裁判所でしょうに。

⑤2022年4月9日

高等裁判所に上告して、また「棄却」されました。「高橋の意見書」を無視しての判決ですので、裁判官の心も痛んでいたのでしょうか。いいえ、傍聴席からみていて、原告の弁護士(この裁判では弁護士はいません。)、被告の弁護士、裁判官と、司法の世界だけの関連あるのだと強く感じました。
被告名古屋市の弁護士は建築基準法、建築士法、国交省通達がわからず、裁判官は傍聴席にいる名古屋市役人と直接やり取りをするのです。まったく無茶苦茶な裁判でした。

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